静岡県だからこそ、もう一人産んでみたいと思える取り組み
-保育者をめざす学生が考案する、地元の木材を使った玩具を媒介に―

基本情報

事業名 静岡県だからこそ、もう一人産んでみたいと思える取り組み
-保育者をめざす学生が考案する、地元の木材を使った玩具を媒介に―
担当者 永田 恵実子(2017年度退職)
所属 人間社会学部 コミュニティ福祉学科
実施時期 2014年8月13日~2015年3月31日
分野 こども
キーワード 静岡県、ゼミ学生、子育て支援、少子化、お父さん

事業の紹介

概要

静岡県(健康福祉部)より少子化対策ユースプロジェクト推進事業の要請を受け、保育者をめざす大学生が、地元親子の協力を得て様々な「子育て意識」や実態についての調査研究に取り組んだ。
本研究の目的は、それらの様々な取り組みを通して調査結果を検討し、学生の「子育て」意識及び実態の変化について明らかにすることである。したがって、対象を本学の保育者をめざす学生35人とし、子育て意識と実態に関する調査を、2014年8月~12月までおこなった。
取り組みの内容は以下の5事業であった。

①静岡県内の木材で玩具の考案する(8月~9月)
②制作玩具(①)を使って親子とであそぶ(11月)
③保護者との懇談会(2回.10/18・11/22)開催
④(①②③)の前後の2回学生「子育て意識」アンケート調査
⑤(①②③)の前後の2回保護者「子育て意識」アンケート調査。

今回は、これらの取り組みの結果から、学生の「子育て」意識及び実態の変化があったことを報告した。それは、様々な取り組みの経過から、学生たちが子育ての現実を目の当たりにし、自分たちの将来を考える機会を得ることができたことからだと考えられた。

目的

静岡英和学院大学の保育者をめざす学生たちが2010年度から現在まで5年間継続して『学生による子育て親子広場あちょぼ』を企画運営し、地域の乳幼児親子と継続してかかわってきた。この保育実践を、より一層発展させ、親子広場で交流する親子を巻き込んだ取り組みを通して、一緒に少子化問題を研究していくことにした。つまり、少子化問題の意識を高めていくことがキーワードである。
アプローチの手がかりとして、学生オリジナルの木育玩具をシンボルとした。木製玩具作成に目をつけたのは、静岡県の環境が非常に自然豊かで子育てに適していることを五感で感じてもらえるようにとの考えからである。さらに、子どもの発達やあそびについて学んでいる保育学生だからこそ面白い視点で玩具を考案できるのではないかとの思いもあった。素材には県産ひのきを使用し、県内の木工業者に作成依頼するなど、徹底的に地産地消にこだわった。学生考案玩具ができあがり、それらを活用し地域親子と一緒に取り組み、その前後で学生と保護者にアンケート調査を行った。

活動内容

本事業では、静岡県に住む地域親子と将来親となる学生が一緒に少子化対策を考えること。さらに、両者が静岡県で子どもを生み育てることについて意識が高められるようにすることを目的とした。保護者と学生の様々な取り組みから子育て意識の変化について調査研究することにした。
方法として、木製玩具をシンボルとし5種類の取り組みを行うことにした。

  1. 子どもたちが楽しめる静岡県の木材を使用した玩具を考案し作成する。
  2. 実際に作成した玩具(1)で親子にあそんでもらい聞き取り調査(10月18日, 『学生による子育て親子広場あちょぼ(11月17日)』、11月22日)』であそんでもらう。
  3. 保護者との少子化に関する懇談会(10月18日,11月22日)での調査をする。
  4. 123により)学生の少子化意識アンケート調査(10月、11月の2回)をする。
  5. 23により)保護者の少子化意識アンケート調査(10月と11月の2回)をする。

などの調査研究を行いそこから、保護者と学生の少子化意識の変化を見ていった。

成果

(1)静岡県の木材を使用した玩具を考案し作成
1)静岡県の木工職人廃業の現実
地域親子に少子化対策をアプローチする手がかりとして、素材は、県産ひのきを使用し、県内の木工業者に作成依頼するなど、徹底的に地産地消にこだわった。しかしながら、それが難航したのは、木工細工の様々な部分を加工する職人が廃業していくことだった。静岡の木工業者は高齢化の現実があった。県内の木工職人が高齢化から地元の大切な職人技といわれる技術を受け継ぐことなく消えていくこと、少子高齢化の現状をこの取り組みから目の当たりにすることになった。
玩具作成を依頼できたのが、NPO法人オールしずおかベストコミュニティ、県内障害者施設のコーディネイトをしている団体であった。おのおの面白いアイディアをもっていたが、残念ながら期限がある取り組みのため、玩具の細工は限定されてしまった。

2)選考玩具の説明
学生たちから10種類以上の試作案が出されたが、その中から、ふじさんカタカタ、しずおかおでん、しずおかパズルの3点が選考された。

A ふじさんかたかた(写真1.2)
作成の配慮:ふじさんかたかたは、12g。子どもが投げても安全な重さ。安全の工夫として角がないように、子どもが手でもちやすいように考えた。再度子ども手でもてる形、重さの調整をした。


B しずおかおでん(写真3)
玩具の重さは14g。上部のはんぺん、たまご、ちくわマジックテープを使い半分に切れる。ままごとで包丁であそべるように。お父さんが身近なおでんを題材にした。


C しずおかパズル(写真4、5、6)
静岡名物(富士山、お茶、みかん、おでん)をセットにした。パーツを大きくした
ため年齢の低い子どももあそべる工夫をした。最後は親子で表面に好きな色が塗れ
るように平面にするようにした。


 

 

(2)玩具で親子があそんだ後の聞き取り調査(10月18日,11月22日)
1)保護者の声
ふじさんかたかた:子どもが持ちやすく、穴の位置で音が変化しすごいと思った。
しずおかおでん:静岡らしさとユニークさがあり、地方の友人の出産祝いにプレゼントしたらおもしろい。お父さんとあそべることを考えているという説明から、発想はユニークではあるがどちらかというと母親寄りのあそびに思う。父親が楽しめる玩具を考案して欲しい。
ふじさんパズル:パズルのピース隙間にゆとりがあるといい。外す時に裏返しても簡単に出てこないため小さい子どもはあそびにくい。はめるベースに絵があると分かりやすい。パズルの裏面も何かおもしろい仕掛けがあるとよいのではないか。
玩具全体の意見:木の香りがとてもいい。木の色や形がかわいくて、鳴らしてみると音がすてき。説明を受けてわかったが、予想していた以上に発想がおもしろい。

2)学生の振り返り
子どもたけでなく、大人でも「これはどうなやってあそぶの?」と考えてあそべる玩具がよいことが分かった。親子であそぶ玩具つくりのためには、子どもがやっているのを見ているだけではなく、大人も興味が湧きあそびこめるように大人の気を引く仕掛けも考えていく必要がある。とくに、お父さんも楽しめるものを考えることが重要だと感じた。
子どもたちが一生懸命にパズルに熱中する姿や、カタカタと音を鳴らしてあそんでいる様子を見て、「素敵な玩具ができた」と感激し、もっとよい玩具をつくりたいと実感した。

 

(3)保護者との懇談会(10月18日,11月22日)
1)母親と父親に分けて懇談会
2回の懇談会とも参加は10家族。母親と父親の2つのグループに分けて学生たちと懇談会(30分間)を行った。話しやすい雰囲気づくりと家族には言いにくいことがある場合を考慮した。
質問は4問、問1学生時代に考えていたライフスタイル、問2結婚と出産をどう思うか、問3子育てを実際に行ってどうか、問4今、学生に伝えたいこと、などである。


 

2)学生の振り返り
「人は共に支え合って生きている。夫婦間も同じで支え合うからこそ子どもたちもすくすくと育つ」お父さんからの声だった。このような温かい愛情があるから子どもたちは笑顔を見せてくれる。だからこそ子育ては楽しく保育の道に進みたいと思えた懇談会に参加して少子化問題だけなく保育をめざす人として大切なことを学んだ。

(4)アンケート調査結果
対象者は保育系学生(性別:男性17名・女性18名・合計35名、年齢:20歳~24歳34名・30歳~34歳1名合計35名)に子育て意識に関するアンケート用紙を配布し2回(2014年10月、11月)行った結 果を比較検討した。回答は35名(回答率100%)。質問内容は、子育てに関する「子育ての認識度」「少子化の問題度」「少子化の要因」「理想の子ども数」「子育ての不安度」「不安の要因」「意識の変化度」「意識の変化要因」「子育てのイメージ変化の要因」「その他」10問である。
今回は、この質問の中から、1「子育てイメージ変化の要因」2「変化の要因」の2点から学生の子育て意識の変化の内容を検討した。
1)子育てイメージの変化(資料1 保護者懇談会学生のレポート記述抜粋 参照)
1回目のアンケートで、子育てにポジティブなイメージをもつ学生が33.3%であったが、取り組みを行っていくうちに、52%以上の学生がポジティブなイメージをもてるようになってきた。また、ややポジティブなイメージをもてるようになったとの回答42.86%を含むと、95%以上の学生がポジティブなイメージをもてるようになった。しかし、ややネガティブなイメージも47.6%あり親子との様々な取り組みを経験してきたことで、より具体的に子育てのイメージができるようになってきたと考えられた。

具体的なイメージ 回答数 構成比
第1回 第2回 第1回 第2回
ポジティブなイメージを抱くようになった 1 11 0.3333 0.5238
ややポジティブなイメージを抱くようになった 2 9 0.6667 0.4586
ややネガティブなイメージを抱くようになった 0 1 0 0.0476
ネガティブなイメージを抱くようになった 0 0 0 0
その他 0 0 0 0
合計 3 21 1 1
2)変化の要因 (資料1表3参照)
子育てイメージの変化の要因で、第1順位に不安感が無くなったと回答した学生が、47.62%と一番多かった。2番目に多かった回答は、子育てについて具体的なイメージを抱けるようになったから33.33%、3番目に多かった回答は、子どもの可愛さを再認識できたからであった。これは、学生たちが保護者から具体的に子育て家庭の現状を聴くことで不安感がなくなってきたことや、主体的に玩具をつくり子どもとかかわることでより子どもの可愛さについて身をもって理解したことからこの結果が出たのとだと考えられた。  

(5)まとめ
以上のような取り組みの結果から、学生たちの少子化意識の変化についてまとめる。
1 木製玩具の考案作成をすることで、高齢化によりは職人が廃業していくなど静岡県内地域の少子化の現実を目の当たりにすることでより少子化対策が近々の課題であることを理解した。
2 静岡県の木製で作成した玩具は豊かな自然の香りがし、親子にも楽しんでもらうことができた。玩具という視覚的な手掛かりをもつことで学生が、目的をもって主体的に少子化の取り組みに入っていくことができた。保護者と密接した関係が取れたことで、学生たちは多くの学びをすることができた。そして、具体的に自分のライフプランを考えることができるようになった。
先輩保護者の体験を具体的に伝えてもらえたこと、一緒に考えられたことで学生たちは、「かわいい子どもをもう一人生み育てていくために、学生だからこそ、今できること」に対しで真剣に向き合うことができた。これは様々な取り組みの成果といえる。

備考

静岡県内地域社会への貢献の充実は、TVや新聞、大学雑誌メディアの協力もあり、県内における本学の知名度アップに寄与するとともに、静岡県の重要な少子化対策事業として位置付けられた。

 

 

資料
1.新聞掲載記事


◎静岡英和学院大学
学生たちが考案した木製玩具を県庁舎内の託児施設に設置
静岡英和学院大学人間社会学部コミュニティ福祉学科では、永田恵実子准教授のゼミ生(3年生16人)が考案した玩具が県庁舎にできた託児施設「ふじさんっこクラブ」に置かれている。
保育者を目指す学生たちが5年間継続して地域乳幼児親子と関わってきた保育実践教育をさらに発展させたいと考えて、静岡県少子化対策ユースプロジェクトの応募を試みた。同大学ではその事業の委託を受け、学生が地元の木材を使用して玩具を考案することになったもの。
地域の親子に少子化対策をアプローチする手がかりとして、自然豊かな環境で子育てに適していることを五感で感じてもらえるように、学生に木製玩具を考案させ、親子で遊べる玩具をシンボルにした。素材は県産ひのきを用いて、県内障害者支援法人に作成を依頼するなど、徹底的に地産地消にこだわったという。
木製玩具は子どもが投げても安全な重さの「ふしさんかたかた」や、マジックテープを使って半分に切れる「しずおかおでん」、静岡の名物をセットにした「しずおかパズル」の3種類。心地よい自然木の香りは玩具を使って遊ぶ親子に安心感を伝えている。永田准教授は「今後、新しい玩具もできあがる予定で、学生には地域親子との交流を続けさせたい」と語る。

※静岡県庁内一時預かり保育所(託児所)「ふじさんっこクラブ」に本学学生による木製が置かれ、知事に絶賛していただいたこともあり、NPO法人オールしずおかベストコミュニティから木製企画依頼がきている。早急に協定書の作成を願いたい。

今後の予定

  1. 学内での地域子育て支援活動
  2. 静岡県こども未来課 ふじさんっこ応援隊「出張あちょぼ」
  3. しずおか人形劇フェスティバル(2015.3.6.22)
 

メッセージ

5年間に渡り「子育て親子広場あちょぼ」のご愛顧ありがとうございました。沢山の親子のみなさんにご参加いただき感謝いたします。引き続き永田ゼミでは、様々な子育て支援を行っていきます。保護者の方々にも参画いただき静岡の子育て課題を考えていきたいと思います。将来親になる学生たちと一緒に取り組んでいきませんか。

地域連携事業に関するお問い合わせ・ご相談

(窓口)静岡英和学院大学 企画部 地域連携担当

Tel&Fax 054-262-0091