ふじのくに地域・大学コンソーシアム
効果的な中山間地域への移住施策に関する研究(藤枝市)

基本情報

事業名 ふじのくに地域・大学コンソーシアム
効果的な中山間地域への移住施策に関する研究(藤枝市)
担当者 谷口ジョイ(2018年度退職)
所属 人間社会学科
実施時期 2015年8月1日~2016年1月31日

事業の紹介

概要

中山間地域活性化事業は現在、転換期に来ている。活性化推進における他の自治体との競争が激化し、各自治体は独自性を打ち出す必要に迫られているが、既存の枠組みの中で魅力ある新事業を推進することは徐々に困難になってきている。本研究では、藤枝市の中山間地域における移住施策について様々な観点から調査を行い、これまでにどのような成果が得られ、いかなる問題点が浮上しているのかを分析した。また、実際に中山間地域に足を運び、地域活性化団体や移住者、移住希望者を対象にミクロ的な調査を実施した。このことにより、詳細な現状分析を踏まえた更なる課題の把握やより実際的な対策の提言が可能となった。

目的

2015年度より静岡県は移住促進に重点を置く施策を打ち出した。県は、都内に情報発信を兼ねた移住相談窓口を設置し、学生と県内企業を引き合わせる面接会を企画するなど、取り組みを強化している。人口減対策や地域経済再生の必要性が叫ばれる中、中山間地域の活性化に関する議論は欠かせない。本研究は、藤枝市が実施する中山間地域活性化について、その現状を把握し、課題解決への可能性を模索することを主な目的としている。

活動内容

(1) 藤枝市の中山間地域において、行政担当者、地域活性化団体、体移住者、移住希望者への半構造化インタビューを実施し、社会言語学的手法を用いて分析を行った。またゼミ内でも、中山間地域の人口問題について考え、議論を重ね、解決策を探った。

(2) 藤枝市の中山間地域(瀬戸谷地区、稲葉地区、岡部地区)における以下の地域活性化事業に参加し、研究調査を行った。

平成27年8月22日〜23日(藤枝市田舎暮らし体験ツアー)
藤枝市主催の「来て!見て!知って!ふじえだの田舎暮らし体験ツアー」に、ゼミ学生6名が同行した。今回は「首都圏発着」「一泊二日」「移住者宅への民泊」など初の試みも多く、行政と地域が一体となって企画したツアーであった。東京駅から大型バスでいらしたツアー参加者(6家族22名)と共に田舎暮らしを体験し、藤枝市の中山間地域活性化推進室、地域団体、移住者、移住希望者への聞き取り調査を行った。

平成27年9月26日(白ふじの里秋のフエスタ)
2009年に開設された葉梨西北活性化施設「白ふじの里」で秋のフェスタが行われ、ゼミ学生7名が現地調査を行った。白ふじの里実行委員会会長、及び葉梨地区に移住した方に聞き取り調査を行った。

平成27年10月17日(朝比奈ちまき保存会)
藤枝市岡部町殿(との)で行われた「朝比奈粽(ちまき)作り体験会」にゼミ学生7名が参加した。朝比奈ちまき保存会会長や会員の方に、この保存会の活動や朝比奈地区の地域おこし、移住定住施策などについて聞き取り調査を行った。

平成27年10月17日(移住者交流会)
藤枝市中山間地域活性化推進室では、市内の中山間地域(瀬戸谷、葉梨、岡部)に移住した方々の交流会を定期的に開催している。今年度は、藤枝市の空き家バンク制度を利用して、岡部の朝比奈地区に移住された方のお宅で行われ、ゼミ学生7名が移住者への聞き取り調査を行った。

平成27年11月15日〜16日(せとやまるかじり 中間発表)
藤枝市の中山間地域では最も規模が大きい産業祭である「せとやまるかじり」にゼミ学生3名が参加した。藤枝市の移住相談ブースにポスターを展示し、中間発表を行った。また、本産業祭の主要な目的である「まちむら交流による地域の活性化」について、主催者に聞き取り調査を行った。

以上、移住希望者10家族、移住者9家族、地域活性化団体関係者5名、藤枝市職員2名に対し、20分から40分の半構造化インタビュー を行った。インタビューで得られた音声資料はすべて文字化され、木下(1999)の修正版クグラウンテデッド・セオリー・アプローチ (Modified Grounded Theory Approach, 以下 M-GTA)に基づき、分析を行った。木下は、Glaser & Strauss(1967)のコーディングにおける文脈との切り離しを疑問視し、より包括的にデータを捉えるM-GTAを提唱した。本研究においても、発話全体の流れを注視し、調査協力者の発話を意味のまとまりごとに単一カテゴリーとし、その内容を概念化した。次に、これらの第1次概念から類似したものを第2次概念としてまとめ、より抽象度の高い概念名を設定し、さらにカテゴリー同士の関係性について考察した。

成果

移住に至る経緯として、「自然環境に魅力を感じ、自ら望んで移住した」「都市部における生活環境、育児環境に疑問を感じた」といった個人的要因、また「希望する職種につけたから」という社会的要因が見出された。また、移住後の生活については、「家族と共有する時間の増加」「労働環境の改善」「住環境の改善」「食の豊かさ」「地域との連携」といった肯定的認識、「地域内交通の利便性のなさ」「集落の衰退」「経済不安」といった否定的認識が見られた。 今後は、行政、地域活性化団体、移住者や移住希望者がより強固なネットワークを形成し、情報交換や発信を通して、課題解決に結びつけることを提言したい。
昨今、多くの地域、自治体が人口減少への対応を迫られている。移住定住支援は、地域全体の生活環境向上や活性化へと結びつく重要な施策である。今回の調査によって、交流人口増加を目的とした地域活性化事業や空き家バンク等の行政サービスなど、さまざま活動の現状や今後の指針が明らかとなった。また、移住希望者や移住者を取り巻く要因の多様さが示された。

今後の予定

今後も、移住者が地域とともに、活気ある地域づくりに貢献し、人口減少に対応できるよう、藤枝市中山間地域活性化推進室と連携して、中山間地域への効果的な移住定住施策について調査を継続させていきたい。

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(窓口)静岡英和学院大学 企画部 地域連携担当

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